はじめに
「おすそわけ」を立ち上げたのは、特別なきっかけがあったというより、さまざまな経験と、たくさんの違和感、そして小さな希望が重なったからです。
ここでは、そんな考えを、正直に書いてみたいと思います。
ここで過ごして感じてきたこと
世界の人口は急ピッチで増え続けているというのに、秋田では人口が減り続けています。
日本一、出生率が低く、人口減少率が高い地域です。
もしかすると、世界で一番人口が減っている場所かもしれません。
でも「世界一人口が減っている」というのも、見方を変えればとてつもない魅力になる気がしています。
世の中にはいろんなものがあふれ、次々に新しいテクノロジーが生まれています。
これ以上の便利や生産性が本当に必要なのか、ときどき疑問に思います。
近くの田畑(耕作放棄地)では、景観を保つためという理由でたくさんの除草剤が散布されています。
草もなく赤茶けた田畑を見て、「きれいだ」と感じる人がどれだけいるでしょうか。
そもそも農地として将来再生するのにどれほどの時間を費やすのでしょうか。
「農業は大変だ」と言いながら、昔は一生懸命に田畑を耕していた人たちが、いまでは家庭菜園すらできずにいる。
自分の家族が食べるだけなら、そんなに大きな機械も農薬も、本当に必要でしょうか。
小さな試み
一番先に除草剤を撒いているのは、実は私の父です。
身内のやり方ですら簡単に変えられない。
家族や地域の価値観を変えるのは、本当に大変なことです。
ここに住んでいると、本当の魅力に気づけなくなる。
灯台下暗しですね。
だからこそ、都会や海外から来てくれる人がこの土地の価値を教えてくれます。
たんぽぽ館や、そこで体験できる自然農も、その一つの試みです。
また、私は小さな養蜂家として二ホンミツバチを飼っています。
でも、農薬や除草剤が原因なのか、原因不明の大量死が起きています。
地域の理解があって養蜂を続けている立場なので、一方的に農薬をやめてほしいとも言えません。
それでも、もし田んぼが小さな家庭菜園の集合体になれば、無農薬で育てられる未来もあると信じています。

3つの視点
自然
自然は、もともと人がいなくても循環を続けてきた存在
でも、私たちはその長い営みをほんの一瞬で変えてしまいました。無理に抗わず、少しだけ力を借りて、一緒に生きていくことを選びたいと思います。
人間
人は自然の一部だったはずなのに、いつの間にか距離が
便利さや効率を優先する中で、足ることを忘れてしまうこともあります。もう一度、つながりや共感を大事にする暮らしに戻れたらと思っています。
道具
道具は人が生み出し、それ自身で自然には還らないもの
でも、本当は直しながら長く使えば、愛着が生まれ、暮らしを豊かにしてくれる存在です。壊れやすく使い捨てられる道具ではなく、修繕しながら次の人に手渡せる道具を大事にしたい。
これからのこと
家も田畑も、本来は美しい風景の一部です。
でも、いまは残念な姿になってしまっている。
大型機械が入る土地なら、大規模農業も意味があります。
世界の人口が増える以上、それも必要なことです。
でも、人が人らしく自然の中で食べものを作ることも、同じくらい大事です。
そんな価値観を持った人と、この土地に住む私たちがつながることができれば、
むしろ維持すら難しかった中山間地の生産性の低い田畑が守られるかもしれない。
「田んぼのサブスク(国民総小作人制度)」は、中山間地の稲作農家が選べる賢明な未来だと思っています。
一度除草剤を撒かれた田んぼを再生するには、たくさんの年月がかかる。
もう、一刻の猶予もありません。
解体の仕事でも、重機で壊すのではなく、人の手で素材を取り出すことで、
100年、200年先も使えるものに生まれ変わらせたいと思っています。
おすそわけに共感いただける方へ
ここに住むみなさんへ
長い間、鞭打って、田畑や家を守ってこられたこと、本当にありがとうございます。
いま、耕作放棄や除草剤散布も限界が近づいています。
自然には抗えません。
抗っても、意味があるのはあと10年、もしかしたら数年かもしれません。
その先の100年、1000年を考えるために、どうか一緒に力を貸してください。
ここを訪れるみなさんへ
この土地はまだ「当たり前」に見える景色の中に、たくさんの小さな豊かさがあります。
もし、その価値に気づいてくださるなら、どうか一度足を運んでください。
さいごに
そこに住む人、旅人、土と水、限りある資源、自然と仲間と共生する心。
遠い未来の子孫のために木を植えるように、永く景観を守り、足るを知る暮らしを広げたい。
そんな縄文時代のような秋田が、この先きっと素晴らしいと信じています。